親族が亡くなった住宅(いわゆる事故物件・心理的瑕疵物件)を相続する場合、不動産の価値が下がるのだから、相続税の評価額も低くなるはずだと考える方は少なくありません。
しかし実務上、孤独死や自殺等があったことのみをもって、一律に評価額を減額することは非常に慎重に判断すべき事項です。当法人では、原則として安易な評価減は避けるべきと考えております。その理由を、税務と不動産実務の両面から解説します。
1. 国税庁が定める「利用価値の著しい低下」の定義
相続税の土地評価において、周囲の土地に比べて利用価値が著しく低下していると認められる宅地については、10%の評価減ができる規定(タックスアンサーNo.4617)があります。
ここで例示されている要因は、主に以下のような半永久的かつ物理的・環境的な外部要因です。
- 地形・地勢:極端な高低差、地盤の甚だしい凹凸、震動など
- 周囲の環境:墓地、騒音・悪臭を発する施設、日照の阻害など
事故物件という事実は、時間の経過とともに心理的な影響が薄れていく性質のものです。地形や立地のように将来にわたって解消されないマイナス要因とは本質的に異なると解釈されるのが一般的です。
2. 宅建業法の指針を参考にした判断
なぜ土地評価の話に不動産取引のルールが関係するのでしょうか。それは、相続税評価における「利用価値の低下」を判断する際、そのマイナス要因が将来にわたって継続するかどうかが極めて重要視されるからです。
2021年(令和3年)10月に国土交通省が策定した「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」では、不動産取引における告知義務について一定の基準が示されました。ここでの「特殊清掃」の有無による線引きは、税務上の判断においても重要な示唆を与えています。
告知が不要となるケース(原則)
老衰や病死などの自然死、または転倒や誤嚥などの日常的な不慮の事故による死は、原則として告知義務がありません。孤独死であっても、早期に発見され通常の清掃の範囲で対応できた場合は、法的には心理的瑕疵に該当しないと整理されています。
告知義務が生じるケース
発見が遅れ、遺体の腐敗等により特殊清掃(消臭・消毒等)が必要になった場合は、たとえ自然死であっても告知義務が発生します。自殺・他殺の場合も告知義務の対象です。
【告知義務の整理(ガイドライン概要)】
| 死因・状況 | 賃貸契約 | 売買契約 |
| 自然死・不慮の事故(特殊清掃なし) | 原則として告知不要 | 原則として告知不要 |
| 自然死でも特殊清掃が必要な場合 / 自殺・他殺 | おおむね3年間は告知義務あり | 期間の定めなし(告知義務は継続) |
※ 売買契約の場合、自殺・他殺等があった物件については3年を経過しても告知義務が継続します。相続した不動産を将来売却する際には、この点に特に留意が必要です。
このように、現在の不動産実務の潮流を踏まえると、特殊清掃を要しない程度の事案であれば、物件価値を永続的に損なうものとはみなさないという考え方が一般的になりつつあると思われます。例えば、「近隣の墓地」は何十年経っても状況が変わりませんが、孤独死等が発生した場合、賃貸であれば数年で告知義務がなくなる事象を、半永久的な価値の減価として定義するのは、税務当局への反論として困難を伴う可能性が高いと考えられます。
3. 税務調査リスクと鑑定評価の検討
相続税申告において、客観的な根拠なく「事故物件だから」と独自の判断で評価を下げて申告した場合、税務調査において否認(加算税の対象)されるリスクを伴います。
ニュースになるような凄惨な事件現場であるなど、明らかに市場価値が著しく損なわれていると客観的に判断される場合には、以下の対応を検討すべきです。
- 不動産鑑定士による鑑定評価:抽象的な「心理的な抵抗感」ではなく、市場実態に基づいた適正な時価を客観的に証明する。
- 売却実績の参照:実際に著しく低い価格で売却せざるを得なかった場合の客観的資料(売買契約書等)を揃える。
【結論】
特殊清掃を伴わない一般的な孤独死等をもって評価減を行うことは避けるべきであり、慎重な対応が求められます。評価減を検討する場合には、必ず不動産鑑定士の鑑定評価書等、客観的な根拠を用意した上で申告することが不可欠です。
ご留意事項
- 本記事の内容は、特定の事例に基づく当法人の一見解を示したものです。
- 税務上の判断は、個別の契約内容や利用実態、最新の法令等により異なる場合があります。
- 当法人は、本記事の情報を参考に実施された税務処理等により発生した不利益や問題について、一切の責任を負いかねます。

